今年はコロナ禍の影響で小学校も休校となった。隣に住む6年生と4年生の孫たちも、親が仕事でいないときは、我が家で勉強することになるのだが、2人はこの時間を「おばあちゃん学童」と呼んでいる。

はじめに1日の予定を立てる。2人は宿題の漢字ドリルや計算ドリル、音読、社会のノートまとめなど、やりたいことを書き出す。そして、わからないところは一緒に考えたり調べたりする。また、パプリカの踊りを教えるテレビ番組があり、ビデオに撮って3人で一緒に踊る。これがまた痛快で楽しい。それぞれの予定が終わると丸い済印を押してあげる。2人は、この済印をもらうのも楽しみの1つなのである。

そして、「おばあちゃん学童」では、毎日いろいろな経験をすることになる。

まず、昼食が終わった後は、食器を洗う、水ですすぐという2つの役目をお互いに交代でやることを決める。2人が一緒に立って水仕事をする後姿がほほえましい。

また、今日の予定が済んだので「お掃除をするので手伝ってくれる」と言うと、部屋に掃

除機をかけたり、何も言わなくても玄関掃除や、外に出て植木の水やりまでしてくれる。次の日には、2人から「今日もお掃除がしたい」と言うので、台所の床を拭いてもらう。「お陰で家が綺麗になったね。自分の家でもお掃除するといいよ」と言ったら、下の孫が「家だと何だか力が入らないの。他だと頑張るんだけど」と言う。思わず孫の正直さに笑ってしまい、そうだったかも知れないと小学生の頃の自分の姿を重ね合わせてみる。いつか、この一生懸命さが生かされる日の来ることを見守っていたい。

次は、「お料理を作ってみようよ」と提案する。2人の大好きなこんにゃくと鶏肉の煮物

だ。「わあ、やるやる」とこんにゃくを手でちぎる。「手でちぎると味が染み込むのよ」と教える。鶏肉を切って、ごま油で炒め、鶏肉の色が変わったところに、こんにゃくと合わせて炒める。酒、みりん、砂糖、醤油の調味料を計るのも、間違えないようにと真剣だ。調味料を加えて、ときどき交代でかき回しながらコトコト煮る。自分たちで作り、出来上がった味に「美味しいね」と満足そうだ。レシピもメモして、夕飯のおかずに家に持って帰ると言う。

 またある日は、家に残っていたアーティフィシャルフラワーの花材で「小さなアレンジメントを作ろうか」と言うと「うれしい」と喜ぶ。「花を挿す時は平らではなく、高い低いをつけるといいのよ」と言うと、「これとあれは合うのかな」と隣り合う花や色を選んで挿していくのも楽しそうだ。「2人とも上手に出来上がって、とても素敵だね」と言って写真を撮ってあげると、そのできたアレンジメントも家に持ち帰って自分の机の上に飾るのだと言う。

そしてある時、「読んでみたいものがあるの」と2人に言う。東日本大震災の被災地へ毎年3月になると足を運んでいた「朗読グループ秋桜」の若井富士子さんが書いた「大川小学校へ」の文章を朗読してあげる。若井さんは小学校の先生をしていて、どうしても行ってみたいと思っていた大川小学校まで出かけて行き、無残な瓦礫の校舎跡が残る生々しい場面を見て、「こんな悲惨なことがあったという事実、忘れてはならない事実である」と書いている。じっと聴いていた2人。すると、上の孫が「毎年3月11日には、校庭で東北の方に向かって、みんなで黙祷するよ」と言う。同じ小学生がたくさん犠牲になったことや命の尊さについて、孫たちの心の中に、少しでも考えるきっかけになってくれればと思う。

こうして、若井富士子さんが書かれた貴重な記録は、「おばあちゃん学童」に生かすことができた。思いもかけない長い休校期間が孫たちにも、私にもかけがえのない大切な時間になったことに感謝する。