今日は特別な日になった。私が小学校3年生のときから、ちょうど50年ぶりに担任の桑野啓子先生(旧姓:為我井先生)と再会したのだ。

先生が大学を卒業されて、初めて赴任したのが行徳小学校で、私たち3年3組のクラスが先生の最初の教え子である。担任は1年間だけだったが、先生とはずっと年賀状のやり取りが続いている。先生は、行徳小学校から3校ほど転勤され、定年までご勤務される。いただいた年賀状には、江戸川区の小学校に行くため、東西線を使っていて、行徳小学校当時を懐かしく思い出していると書かれていた。

数年前、先生と電話でお話しする機会があり、先生がボール紙で甲冑を作り、展示することを知る。だが、その時は都合がつかず、私は甲冑を見ることができなかった。ボール紙で甲冑を作るというのは、どういうものだろうか。次回は、ぜひ見たいものだと思っていた。

そして今回、先生から、江戸川区の教員作品展への出展のお知らせをいただき、私は主人と娘と一緒に展示会に伺う。先生の作品は、「着用甲冑」と「押絵羽子板」、そして「木目込雛人形」である。どれもすばらしい作品で、主人も娘も驚いている。

先生の甲冑作りは、「松戸手作り甲冑愛好会」が始めた講習会に、参加を申し込み、習い始めたのがきっかけだった。甲冑は実際に着られるもので、先生に作り方を詳しく伺ってみる。

まず、甲冑の土台はボール紙を使い、縦と横に組んでボンドで貼る。ボンドは手で直接塗るため、指の指紋がなくなってしまうこともある。また、松戸市にある戸定邸の茶室で作っているため、色塗りの部分は、家に持ち帰って塗る。そして、ボール紙には、革細工で使うポンチで穴をあけるのだが、大人の甲冑では、何と4,000個もあけるという。その数の多さには、本当にびっくりした。穴をあけているうちに、指を打ってしまうこともよくあるそうだ。

ボール紙だが、甲冑を組むひもは、鎧作りに使われる縅(おどし)糸を使う。縅糸は太いので、そのままでは入らないため、先を2cm位斜めに切って通していく。今回の先生の作品は胴には縅糸ではなく、帯地を貼って新しい工夫をしている。細かい工程やいろいろなご苦労があることを伺って、その大変さに驚いた。ボール紙で作ったとは思えないほどの見事な出来栄えである。今までに作った甲冑は3つある。大人用と七五三の時に着る子供用、そして今回は、少し小柄な方用の大きさだそうである。

また、後で職場の同僚に甲冑の写真を見せたところ、松戸市国際交流協会のイベントで、実際に手作りの甲冑を、外国人が着ていたのを見たという話を聞いた。こんなに身近なところで甲冑の話が繋がったことにも、先生とのご縁を感じた。

お雛様の木目込みや羽子板の押絵も講習を受けに行ったそうだが、まるで職人が作ったようだ。こんなにもすばらしい物づくりをされる先生を初めて知る。作っていた作品が完成した時のお気持ちは、達成感と共にどんなにうれしかったことだろう。物づくりの話をしている先生は、とても生き生きとしていらっしゃる。夢中になれること、生きがいをもつことは、本当にすばらしいことだと思う。

さて、甲冑がご縁で、先生にお目にかかれたのだが、50年ぶりの再会のために、私は思い出の写真を探す。5,6年生の上級学年になると、修学旅行や見学の写真はたくさんあるが、3年生の写真というとなかなか見つからない。それでもやっと3枚の写真を見つけた。3年生の春休みに、桑野先生と、クラスの女の子5人でお弁当を持ち、江戸川の河川敷に出かけたときのものである。その写真は、先生が撮ってくださったもので、残念ながら先生は写っていない。でも、私には、そのときの先生のお顔がしっかりと目に浮かぶ。

写真には、5人がお揃いの水玉模様の三角巾をつけている。これは、先生からいただいたものだということを思い出す。写真をアルバムから剥がして、お見せしようとしたが、古い写真なので、途中までしか剥がれない。それで、やむなくその写真を撮り、プリントして、先生にお渡しした。先生は、懐かしそうに目を細め、あの日、河原は風が強かったこと、三角巾は、黒にピンクの水玉模様だったことも教えてくれる。先生が50年前のことを鮮明に覚えていてくださったことに、私は胸が一杯になった。

また、今でも、桑野先生が行徳小学校にいた頃の先生方の「五月会」という集まりが、続いている。8名位の先生方が集まるが、今は出席こそされないけれども、100歳になる先生もお元気でいらっしゃる。そして、「五月会」には、私の1、2年生の担任である佐藤紀子先生(旧姓:鈴木先生)も参加されている。いつもその日のうちに作りあげることができる手芸などを考えて、集まった先生方で、みんな一緒に完成させるということを佐藤先生から伺ったことがある。ただ、お会いして話すだけでなく、何かを作ろうというお気持ち、そして、それを続けている先生方は、すばらしいとしみじみ思う。

退職後、新しいものに挑戦していく桑野先生の真摯なお姿から、目標をもつことの大切さを教えられた。昨年、私も定年退職という一つの区切りを迎えた。まだ、有り難いことに嘱託として働いているが、その中で、自分が求めていくものは何なのか、そして、私のやりたいことは何なのか、どの方向に歩んでいこうか、試行錯誤の中から、今、新たな目標に近づいていく予感がする。