私には忘れられない桜がある。千葉商科大学のキャンパスにある1本の河津桜である。堅いつぼみが膨らんで、少しずつ薄桃色の花びらが見え隠れする。そんな小さなつぼみにさえ、私の心は弾んでくる。次第に桜の木全体が華やかな雰囲気を醸し出す。毎年、春を待ちわびて咲く河津桜は、いつも私を元気にしてくれる。

ところが、今年でこの河津桜にもお別れをすることになる。定年退職後、私は大学の嘱託職員として勤務してきたが、来年度から就業規程が、週5日勤務のみになることを知る。私にとって、この変更は思いがけないことで、戸惑い、すぐには受け入れられない気持ちになった。1つの区切りとして、家庭の事情が許す限り、当然のように65歳までは働きたいという希望が心の中にあったからだ。

つまり、これは私にとってのキャリア選択だ。あと1年ではあったが、1日勤務日を増やすのか、辞めるのか、2つのうち1つを選ぶことになる。減らすというのは容易だが、1日でも増やすということは、いろいろな面で無理をしなければならないだろう。主人にも相談し、母の介護のこともあり、今年度一杯で大学を辞めることに決めた。

これで完全に大学から離れるのだと思うと、42年続けてきた仕事をやめるというのは、やはり寂しいことである。振り返ってみると、9人の同期と共に、新入職員として入局したあの日がとても懐かしい。その道のりが、歩んできた月日がとても短く感じられることに驚いている自分と、同時に、今まで大学という職場を通じてのたくさんの出会いに、私は同僚に恵まれてきたなあとしみじみ思う。そして、また多くの学生達にも接することができた。そんな思いが大学を去る私を温かく包んでくれている。そして逆にここまで仕事を続けられたことは、家族はもちろん、周りの人達に助けられ、支えられてきたからだ。今の私には、カウントダウンの残り少ない一日一日の勤務がより大切なものに思えてくる。

 そして、ふと、私はこの河津桜を毎年見てきたが、河津桜が私を見ていてくれたようなそんな気さえしてくる。きっと私の第2の卒業を見守ってくれているのだろうと思う。