毎年、3月初めに千葉商科大学で『キッズビジネスタウンいちかわ』が開催される。これは、大学が一つの街になり、この街で子供たちが働いて、自分でお金を稼ぎ、買い物をし、社会の仕組みを体験することができるイベントである。
参加対象は、小学生以下の児童・幼児であり、幼児は4歳からである。千葉商科大学に勤務している私は、二人の孫たちがちょうど、姉が6歳、そして妹が4歳になったので、昨年初めて『第13回キッズビジネスタウンいちかわ』に申し込んだ。土曜日、日曜日の2日間だけだが、とても人気があり、あっという間に申し込みが一杯になる。申し込んだときには、まもなく締切りになるところだった。両日で、なんと1,500人の子供たちが参加したという。当日は、孫たちが母親と参加し、私も案内役として一緒に行く。
<市民証の受け取り>
まず、大学内にある市役所で、学生スタッフが市民証を渡してくれる。市民証にはバーコードが付いていて、子供たちが働いた仕事を記録するタイムカード代わりにもなる。これで初めて『キッズビジネスタウンいちかわ』の市民になれる。
<仕事探し>
次は、ハローワークへ行って仕事を探すのである。ところが、混んでいて長い行列ができている。時間のかかるところは、「職業安定所」さながらで、非常に現実的かもしれない。子供たちは並ぶことに慣れているのか、時間をつぶし、ハローワークの入り口にたどり着く。
いよいよ仕事を選ぶ。仕事は、パソコンの画面上に、仕事の名前、空き人数が表示されている。幼児には仕事に制限があり、食べ物エリアの仕事にはつけない。仕事を選ぶと、仕事カードをくれる。仕事カードとは、各ブースで働いていることを証明してくれるもので、仕事カードがないと子供たちは働けない。市民証のバーコードと仕事カードのバーコードを読み取り、どこの子がどこで働いているかを管理しているという。なるほどと感心してしまう。その登録もハローワークで働いている子供たちが受付をする。ブースは、公共、食品、工房、学び、遊び、生活などに分かれている。
<就職:復興支援ブース>
最初に二人がついた仕事は、岩手県立宮古商業高校の復興支援ブースで、東日本大震災の復興支援の一環で、東北の高校生が地元の物産品などを実際に販売している。孫たちは、女子高校生の間に入れてもらい、「いらっしゃいませ。」とお客さんに向かって、声をかける。初めは恥ずかしいのか、二人とも声が小さかった。妹は泣いてしまい、母親のところに来て、抱っこしてもらうこともあったが、そのうち、姉と一緒に他の子供たちと競い合って、声を出すようになった。お客さんに買ってもらって、物産品を袋に入れて渡すことが、とてもうれしそうな二人だ。
<給料>
30分以上働いたので、退職して銀行へ行く。そして、仕事カードを見せて、働いた給料をもらう。お金は「円」の代わりに「リバー」という手づくりの地域通貨である。30分で地域通貨の220リバーがもらえる。銀行の隣が税務署になっていて、ここで給料の10%の税金20リバーを払って、手元には200リバーの給料が残る。もちろん、銀行や税務署で働いている子供たちもいる。
<就職:バルーンアート>
お金をもらったので、買い物をするかと聞いたら、「もっと働きたい。」というので、再びハローワークに並ぶ。今度は、工房エリアにあるバルーンアートに行って働くことにする。バルーンアートは、風船を使っていろいろな形を作るブースである。風船を膨らませるところから、丁寧に学生スタッフに教えてもらい、キュッキュッとねじったりしながら、二人とも真剣そのものだ。そして、花とウサギの二つの作品を完成させる。作ったものは、流通センターで回収して、手作り品として売られるそうである。また、自分で作ったものを買いたい場合は、予約ができるという。二人とも花のバルーンを予約して、流通センターに行く時間も教えてもらう。
<お買い物>
ちょうど、おなかもすいてきたので、先程と同様、バルーンアートで働いた給料をもらい、お昼にする。自分たちの働いたお金で、初めて買いに行ったのは、ポップコーンだ。「初めての買い物」というタイトルをつけて、切り取りたい場面だと思った。
また、この街では、親たちもギフトカードを購入し、使えるので、親も子も一緒に楽しむことができる。
<就職:花屋さん>
キッズビジネスタウンに来るときに、孫たちに「どんな仕事がしたいの。」と聞いたところ、「花屋さんをやりたい。」と言っていた。
しかし、花屋さんはいつも人気がある仕事で、空きがない。3度目に、やっと花屋さんの仕事につくことができる。
まず、女子学生スタッフから、仕事を一つひとつ教えてもらう。花を選び、はさみを使って、花の茎の長さを切り、花束を作る。茎の下にティッシュを巻いて、水に浸し、アルミホイルで包み、上から包装紙でラッピングをする。リボンをつけて、最後にバーコードまでつける。売り上げをパソコンに入力している男の子もいる。
姉は、花を選び、組み合わせもどんどんやっていく。実際大人ならば、いろいろと迷うような気がするけれど、子供は躊躇せずに選ぶ。実に気持ちがいい。リボンがなかなか結べない妹も、一生懸命に自分で結ぼうとしている。できないながらもなんとかしようとして、何度も挑戦する。そして、もう一度教えてもらって、やっと結ぶことができた。小さいながら、仕事をしているという意識がある。自分でやろうとする気持ちと、どうしてもできないときには、教えてもらうという素直な気持ちも共に大切な経験だと思う。
2回目に作った花束は、二人が作っているのを見ながら、ずっと辛抱強く待っていてくれたお母さん方が買ってくれた。二人は顔を見合わせてにっこり。花束がすぐ売れた喜びも味わう。3回目に作った花束は、後で買いに来ると予約している。
この後は、花屋さんで働いた給料をもらい、ヨーヨーで遊び、自由に買い物をして楽しむ。それから、流通センターに行き、自分で作った花のバルーンを買って、うれしそうに手首につけている。そして、花屋さんに寄って花束を買う。「おばあちゃん、今日はここに連れてきてくれてありがとう。楽しかった。」と、小さな二つの花束をもらった私は、胸が熱くなった。