私の曾祖母の実家が近所にある。私は、この家の善子さんが習っているという「継ぎ紙(つぎがみ)」の作品を見せてもらったことがあった。これが私にとって「王朝継ぎ紙」との初めての出会いだった。

「継ぎ紙」とは、私も初めて聞いた言葉だったが、平安王朝に宮廷の女房たちによって生み出された和紙工芸で、文様を刷った唐紙やさまざまな色の染め紙に金・銀の箔をまいたものを使ってデザインしたものだそうだ。「継ぎ紙」として現存するものは、明治二十九年に発見された「本願寺本三十六人家集」が当時のおもかげを残すのみである。

「第二十九回王朝継ぎ紙合同作品展」が、平成二十五年三月末に日本橋にある「小津ギャラリー」にて開催された。善子さんが出展することを聞き、私はぜひ作品を見てみたいという思いで出かけていった。

作品展には、銘々皿、かるた、香包や短冊、扇、本などが展示されていたが、現代の世に平安時代の貴族が愛でた世界がよみがえったように感じた。     

まず、色使いがとても上品ですてきだった。私が今までに見てきた着物の文様と重なった。隣り合う色の調和、そして、一つ一つの作品、デザインには、作る人の思いが込められている。たくさんの心のこもった作品をみせていただいた。

「王朝継ぎ紙の手法」には、大きく分けて切り継ぎ、破り継ぎ、重ね継ぎの三つの方法があるそうだ。一つ目の「切り継ぎ」は、直線で切り取って継ぎ合わせる方法で、二つ目の「破り継ぎ」には、いろいろな破り方があるが、目打ちでぷつぷつと穴をあけて破るやり方がある。三つ目の「重ね継ぎ」は、薄い色から濃い色までグラデーションで五段階に染めて、それを重ねて、少しずつずらして貼るのだそうだ。その他には、「墨流し」といって水面に墨を流して紙に写し取るやり方などがある。こうして作った何枚もの紙を組み合わせて一つの画を作り上げていく。

善子さんの作品は、「でっ葉本ちょうぼん」だった。「粘葉本」は、糸を使わずに糊だけで製作する冊子で、平安時代の冊子がこの方法で作られていたそうだ。本の製本で「和綴じ」という糸を使ったものは見たことがあるが、私にとっては「粘葉本」という言葉も作り方も初めてのものだった。見開き二頁分の用紙を二つ折りにし、順に糊で貼っていくので、見開きになる部分と裏の分の部分が交互にできていく。見開きの時はいいが、開いた時に隣り合う裏どうしの頁の色合いとデザインのバランスがとても難しいそうだ。

善子さんは「粘葉本」のタイトルに「あけぼの」とつけた。会場の担当の方に、善子さんに教えられた通り、親戚のものだが粘葉本を開いてみせてほしいとお願いしたところ、その方は、ちょうど善子さんの友達だった。白い手袋をして、ケースを開けて一枚ずつ丁寧に見せてくださった。本なので、開いて展示してあるだけでは、その見開きの部分の頁しか味わえないが、「あけぼの」を一頁ずつ見ることができ、本当にすてきな作品で感激した。私の身近な人が、伝統を守ることに係わっていることを知ってとてもうれしかった。

例えば、紙の色を染めるときには、花が咲く前に染めるときれいな色に染めあがるのだということも善子さんから教えてもらった。ドクダミは黄色っぽいグリーンになるそうだ。子供に成長する力があるのと同じように自然界の植物の蕾にもその力が備わっているのではないかと思った。庭のびわの葉も染める材料になるということなので、身近な材料で作ることができるというのも興味深いことだった。 後日、善子さんから王朝継ぎ紙源氏物語の葉書をいただいた。源氏物語の中にも実際に「継ぎ紙」という言葉が出てくるそうである。「王朝継ぎ紙」には華やかさの中にうつろいの美があるようだ。私も源氏物語の世界を覗いてみたくなった。